2023年10月6日 10:00

危機管理を考える【9】 謝罪会見での「指名NG記者リスト」

PR総研 主任研究員
共同ピーアール株式会社 危機管理コンサルティンググループ長
磯貝聡
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先日行われた芸能事務所の記者会見で、事務所から会見の運営を委託されていた外資系PR会社が、特定の記者を会見で指名しないようにする「NGリスト」を会見場に持参していたところ、それがテレビカメラに映り込んでしまったことを契機に、大きな批判が巻き起こり、社会問題を引き起こした企業による会見運営を巡る議論が炎上している。

 

参考:
日経電子版 2023年10月5日 15:28 (2023年10月5日 20:56更新)
ジャニーズ会見「NGリスト」 PR会社が作成認め謝罪https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE054CN0V01C23A0000000/

 
PR会社で危機管理を担当している者あれば、「指名NGリストを作ること自体が不適切であり、これが明るみに出れば大きなリスクになりうる」と考えるのが通常である。

(注:報道ではコンサル会社と報道する会社もあり、筆者は今回の報道で同社について初めて知り得たところ)

 

その上で、万が一、会見の運営補助をするPR会社側から、もしくは会見主催者(企業・団体側)から「この記者は質疑応答では指名しないでほしい」とNGリストをもらった場合、仮に筆者が司会(MC)を務める立場であれば下記のような主張をすることとなろう。

 

 

  • ①「指名NGリスト」を作成すること自体がNG

本件で問題なのは、自社に起因する問題があって、謝罪したうえで補償に言及する必要のある会見であるにもかかわらず、「この記者は質疑で指名させない」と制限を設けたことである。謝罪会見における対応は、真摯な姿勢と情報開示が原則であり、記者及びその向こう側にいる読者・視聴者・国民(=被害者を含む社会)が知りたい事柄について、あらゆる制限を排して回答し、質問が尽きるまでそれを続けことが重要である。

仮に、会見者にとって「好ましからざる記者」にマイクが渡り、回答に窮する質問が頻発したり、罵倒されたりして会見場が荒れたりしても、「そもそも当社に原因がある事案であり、事態収束活動の一環として会見を実施するのだから、あらゆる質問に対して誠意を持って対応する責務がある」と考えれば、「指名NGリスト」などという発想は出てこない筈であり、このような対応は論外だ。

 

議論が混同されがちで、補足整理したいのが通常の記者発表会(新商品発表会)などで、このメディアに案内したいという「会見案内先の媒体・記者リスト」であれば話は別だ。
会見準備の段階で、呼びたいメディアをリストアップして「ぜひ取材してください(案内)」という取材依頼行為のため、大きな問題にはないだろう。

※更に補足:ちなみに、通常時の会見案内ではなく、緊急会見の際に案内先のメディアを制限することは、基本的に不適切であるが、様々な議論が出てくる話である。詳細は稿を改めることとする。

 

  • ②会見の目的は何か

次に、会見主催者は、「会見を開くことで達成したい目的は何か」を考え、その目的に到達する手段としての会見のあり方をよく検討したうえで臨む(結論から逆算して最適のプロセスを実施する)必要がある。

 

そうなれば、
「穏やかで、事案の深層をえぐるような鋭い質問は出ず、経営者・会見者を面罵することもなく、時間内にあっさりと終わること」
は手段としての記者会見として成功したとはいえない

 会見主催者は、最終ゴール(会見に係るメディア報道や記事が出たことによる企業経営へのインパクト)を明確に設定したうえで、そのプロセスとしての会見を通じて何を伝えるかを決定し、備えなければならない。

仮に、
「過去の過ちをすべて認め、被害者への補償を第一に置くことで加害企業としての責任を誠実に果たそうとしている印象を社会に抱かせる」
を会見のゴールとして設定したのであれば、企業として伝えるメッセージは、「被害者への謝罪、補償への真摯な取り組み、責任の取り方」とならざるを得ないであろう。これらのメッセージを、適切に読者・視聴者に伝えてもらうために、情報の媒介者としての記者たちには、会見においてはいかなる制限も設けず、誠意をもって対応する以外に途はなかろう。

 

もちろん、会見者は、重大な加害事案を引き起こした企業の当事者という立場ゆえ、感情的になった一部の記者から会見場で罵倒されたり、「会見場が多くの記者の不規則発言で騒然」との表現で記事が書かれたり、ヤジが飛び交う見苦しい会見の模様がテレビで放送されたりしても、そもそもの原因は自社にあるのだから、これらの事象の発生は大前提として予め想定に織り込んでおくべきことは言うまでもなかろう。

 

なお、不祥事会見の場合、場が荒れて進行が滞るケースがあるが、こうした場合は、主催者側にとってスムーズに会見が進行しないというデメリットがあるのみならず、取材するメディアにとっても適切な取材活動が妨げられるという問題が同時に発生する。こうした背景もあるため、「何があろうと、全てのメディアと公平に対峙し、質問が尽きるまで回答する」姿勢が求められるのである。

 

 

  • ③「作成した資料は必ず流出する」
     「会見場に持参したものと身に着けているものは全て望遠レンズで撮られる」が原則

今回のように「指名NG記者リスト」を作成してしまった場合、いつの時点になるかは別にして、ほぼ間違いなく外部に流出すると思っていい。それは当該リストが存在する(した)というだけでニュースになる事実だからであり、会見に携わっている人間が多くなればなるほど、そのようなリスト作成を問題視する人が出てくる可能性は高まる。そうなれば、確実にメディアへのリークにつながるのである。

また、会見場にそのリストを持参した場合、現在のカメラは望遠機能が高いため、かなりの遠距離からでも鮮明に撮影される可能性や、それを持参した司会者の裏手に回って撮影されるといったリスクもある。

いずれにせよ、常識に照らして不適切と思われる資料はそもそも作成すべきではないし、ましてや会見場に持参するなどはしてはらない。

  (本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解である)

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