2023年9月29日 17:30

危機管理を考える【8】 謝罪会見の最大タブーである「責任転嫁」と「自己弁護」… もしこれをやるとどうなるか

PR総研 主任研究員
共同ピーアール株式会社 危機管理コンサルティンググループ長
磯貝聡
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企業・団体において不祥事が発生し、組織として何らかの「お詫び」をすべき緊急記者会見では、会見者に対しメディア側から投げかけられる質問は大筋で決まっている。

例えば、(1)事実関係、(2)原因、(3)責任の所在と追及。これらは必ず問われる事柄であり、予め想定可能なだけに、周到な準備をすれば完成度の高い「回答」も用意できるはずである。しかし、どういうわけか、会見者が十分な応答が出来ず、それを発端に組織をさらなる危機へと陥れることも珍しくないのが実情である。

本稿では、緊急記者会見でメディアから追及される一般的なポイントを紹介しつつ、不適切な回答について直近の不祥事会見における実際のメディアとの一問一答を参考事例に、その含意を探ることとする。

 

上記は、記者が不祥事の背景や原因・責任などを原因企業・団体(会見者)に質すことで、発生した事案の問題点を炙り出す上での重要な取材ポイントである。

これらの質問に対して、企業トップ(会見者)は、分かっているのに答えなかったり、はぐらかしたり、事態を把握できておらず「調査中」という回答を連発したりすると、メディアの反感を買い、その向こう側にいる消費者・視聴者・読者の反発を招くことに繋がる。

これらのNG回答をすると、反感を持った記者は記事中で会見者の言として見出しで鍵カッコ「  」つきで報ずることもあり、そうなると企業ブランド失墜という最大のリスクを惹起しかねない。

 

不適切な回答の中でもとくに致命的なもの、いわゆるワースト回答は、会見者が「責任転嫁」と「自己弁護」の発言をすることである。

仮に会見者が問題を起こした当事者ではなく、背景に様々な斟酌すべき事情が存在したとしても、メディア上で当該企業の責任が指摘されている段階で上述のワースト回答が出ると、「問題解決の姿勢なし」とか「事の重大性を認識できず」といった、最低評価を下される可能性が極めて高い。

 

今回は、メディアの追及質問のうち、「※印」の書いてある質問とその回答について実例をもとに検証してみることとする。

 

 

 

検討した会見
日時 2023年7月25日(火)
会見者 株式会社ビッグモーター 兼重宏行 代表取締役社長ほか 

 

責任/トップの認識と対応の適切さ

解説

  • 会見者側の冒頭のステートメントはすんなりと終ったが、続くメディアとの質疑応答が始まった1問目からは、嚙み合わないやり取りが展開された。質疑は下記の通りである。

 

一問一答

― 経営幹部が一連の不正にどの程度認識・把握していたのか。経営幹部の指示が無かったのか?

(兼重社長)

今回の板金塗装部門の不正請求問題は、板金塗装部門単独で、他の経営陣は知らなかった。これは事実だと思います。

 

― 社長はいつから不正があったと認識したのか?

(兼重社長)

この6月26日、月曜日に特別調査委員会の報告書を受けて、ほんと、耳を疑った。こんなことまでやるのかと愕然とした。その時初めて、ほんとに、現場に入って、よく見とけばよかったな。そのまた内容が大事なお客様の車をお預かりして、これから修理する人間が傷をつけて、水増し請求する。あり得んですよ。ほんとに、許しがたいですよ。

そして、特に悪質な案件が五つあるよと書いてありました。その中でもほんと衝撃的で、これはもう一線をこえてるなと、ゴルフボールを靴下に入れて振り回して損傷範囲を広げて水増し請求をするという、ほんとにもうこれは許せません。ゴルフボールで傷つける、ゴルフを愛する人に対する冒涜です。事実関係を確認中ですけども、分かり次第刑事告訴を含む厳正な対処をしたいと考えております。

 

― あらためて確認ですけど、6月26日まで社長は知らなかったということか?

(兼重社長)

はい。

 

問題点

  • 解説は不要かもしれないが、会社を代表し従業員を管理すべき立場の社長が、「従業員がやったこと」として責任を押し付けている。さらに言えば、「他人事」感も強く滲み出た回答となっている。

繰り返しになるが、いかなる事情であれ、責任転嫁と受け取られる発言はワースト回答である。

  • 「刑事告訴をする」といった発言も、顧客や世間一般からみれば「社長は責任を追及する立場」ではなく、「社長は責任を追及される立場」であるのにこの発言は不適切との反感を買う。

※補足:会見最後に「刑事告発云々と言ったが、今考えるとその責任は私にあるなあということで、そのあたりは厳正に対処するがそこまでする必要はないなと考えています。考え直しましたので刑事告訴するのを止める」と前言撤回した。
「責任は私にある」とこの段階で言うことと、「そこまでする必要ない」という発言も、顧客目線・従業員目線で見た時には不適切と感じる発言であろう。

  • 社長は「知らなかった」というスタンスで会見に出たが、この会見に先立ち、同社から発表された特別調査委員会の報告書などでも、「社長を含む経営陣が認識していた」旨を指摘された後の回答であったため、記者は社長にこの点を繰り返し確認することとなった。

 

 

発表の時期

解説

  • 会見をする時期が遅いのではないか?なぜ遅くなったのか?それまでに何をしていたのか?という質問は、記者ならずとも、顧客や関係者(本件であれば損保会社なども)としては気になるところ。会見での質問と回答は下記のようなものであった。

 

 

一問一答

― 今回の不正発覚以降なかなか会見を開かなかった理由は?

(兼重社長)

私の認識の甘さが原因だったと思います。今回の特別調査委員会の報告書を開示して役員の処分と再発防止を…開示すれば、良いと。その辺の認識が薄かったですね。甘かったと思います。

7月18日に公開させていただいて、たくさんの方のご質問ご意見をお聞きする中で、説明責任を果たしていないというお声をお聞きしましたので、これでは十分ではないと思い、記者会見を段取りしました。

 

― どんな準備をしていたのか?

(兼重社長)

そうですね。いろいろ、私の辞任も含めていろんな話し合いをしてました。もっと速やかに記者会見を開けばよかったなと、世の中を騒がせてしまったと反省していますよ。

 

― 6月26日に初めて不正行為を知ったということでしたが、報告書によると去年の1月ごろ、社長副社長あてに内部告発があった。その点についてどう受け止めたのか。調査に乗りだそうと思わなかったのか?

(兼重社長)

報告書を見て、あの時しっかりやっとけばよかった、と反省しているんですけど。過去にその人間から何度も、工場長、仲間との確執の報告がありまして、今回も「またか」と、「仲良くやってくれ」ということで、うちの部長を調査に向かわせて、内容を確認したところ、「仲良くやることになりました」と報告を受けたものですから、完結したなと。それ以上のことをやっていませんでした。あの時やれば、こういうこともなかったと反省しております。

 

問題点

  • これは反省ではなく単なる「後悔」、トップとしての認識の甘さを吐露した印象を強く受ける。
  • 率直に自身の心境を語っており、一部には「正直な回答」との受け止めもあり得るものの、結果として、社長が現場を把握しきれていない、危機管理体制が構築できていない、という社長の企業トップとしての資質に対する疑念を招き、危機管理の不備を露呈することとなった。

 

 

組織的/責任追及トップの認識と対応の適切さ

一問一答

― 今回の不正は組織的になされたものか?

(兼重社長)

調査報告書でもありますように、組織的にってことはないと思いますね。個々の工場長がこの原因はもう工場長が指示してやったんじゃないかと、そのあたりまだ事実確認が取れていませんけれども。それでないとこういうことが起きない、と思ってますんで。 

不正の原因で調査報告書にも書いてありましたけれども、「不合理な目標設定」、これを目標じゃなくてノルマになって、元部長が、本部長がノルマを達成させるために強くプレッシャーをかけてたそれが原因で今回の不正が起きたと考えられますので、組織的ってのは、報告書を見ると、手を染めたのが104名いたと書かれていますけれども、組織的と思われても致し方ないんですけれども、決してそんなことありません。

 

― そうは仰いますが、忖度する企業風土、トップダウン型ということを考えると工場長がそのような行動に走るんですよ…改めて経営層の関与はなかったのか?

(兼重社長)
全くないです。

 

 

問題点そしてまとめ

  • 「社長自身が知らなかった」という前提で会見を組み立て、社長自身が発言しているため世間の認識と大きくずれた回答となっている。やはり社長が最終責任を負うというメッセージは不可欠であった。
  • 社長が現場の不正を知らなかったにせよ、経営層の指示がなかったにせよ、往々にして不正の収拾がつかなくなった段階でトップが最後に知るケースは多い。このことを踏まえて「トップである私が不正を把握しておりませんでした。現場をきちんと把握しきれなかった点についても、責任は全て私にあります。調査委員会の報告書を真摯に受け止めて、新体制の下で改善に努めてまいります。誠に申し訳ありません」と責任を明言することが、社会的には求められる。
  • さらに、「現場はノルマ達成のために、お客様に損保会社様に迷惑をかける不正をしていた。そのノルマを最終的に設定したのは社長である私であり、責任は全て自分にある」という姿勢で臨んでいれば会見での回答および記者の受け止めも異なるものとなっていた可能性が高い。
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  • 言い訳や余計な言葉(自身の心情の吐露)は、謝罪会見においては失言であり、信認の失墜に直結する問題行動である。そのような会見しか行えないほど自己管理能力や表現力、行動力に欠けるのであれば、もはや企業トップの資質を具備しているとは言えず、当該組織にとって大きなリスク要因となることは確実であろう。
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