2026年7月1日 18:00

危機管理を考える【19】危機管理広報におけるAI活用のリアル

〜広報担当者6名による「お詫びリリース作成」実験でわかった、AIと人間の役割〜

危機対応のリリースを作成する際に、AIを使う実験を6名の広報担当者を対象に実施。全員が30分以内にリリースの体裁は作れたが、そのまま使えるものはなく、本人による修正が不可欠だった。 自主回収の判断や情報不足への気づき、血の通った配慮など、AIには代替できない広報の本質的な役割が浮き彫りになった。

PR総研 上席主任研究員

磯貝聡
【PR総研概要はこちら】

 

目次

はじめに:「AIが来たら、広報の仕事はなくなる?」
 
1. AIのアウトプットを左右する「消費者目線」の経験値
 
2. プロンプトに表れる「AIリテラシー」と「リスクへの嗅覚」
  ①実験結果に見る、各対象者の回答の違い
  ②プロンプトで「言わなくていいことを書きすぎるな」と釘を刺す
  ③現場のリアルな葛藤がプロンプトと修正過程に色濃く反映
 
3. 広報は「検品者」ではない。現場を巻き込み危機管理をリードせよ
  ① 「さらなる被害拡大を防ぐ」という最優先のミッションへの想像力と、自身で「自主回収」の判断を補う能力
  ② 情報の「欠落」に気づき、社内を動かす主体性
  ③ 「血の通った」コミュニケーション
 
おわりに:危機時のAIとの付き合い方と広報課長へ送るエール

 

 

はじめに:「AIが来たら、広報の仕事はなくなる?」

「AIが出てくれば、私の仕事はもうなくなる…」。

ある日、とあるメーカーのベテラン広報課長(50代)との打ち合わせ中、彼が冗談っぽく、しかし少し寂しそうに漏らした一言である。私はその時、「少なくとも現状では、AIがそのまま企業・団体の広報担当者が行うニュース・リリース作成業務に取って代わることは難しく、一部の作業はAIに委ねられるにしても、最終的にAIが出してきた結果をベテランがチェックする『検品作業』は引き続き残ると思われます」と回答した。

 

それにしても、AIがこのまま普及していくと、やがて広報の役割は本当に「AIの検品」だけになってしまうのだろうか。 現在は、ChatGPTをはじめとするAIツールが急速に普及する中、「AIに任せればリリースが書ける」という期待と、「危機対応のような専門性の高い領域は任せられない」という懸念が交錯する「過渡期」にあるとみられる。

そこで当総研では、広報業務経験やAIの利用頻度が異なる6名の広報担当者(PR会社勤務)に、架空の「異物混入およびお客様対応トラブルによる炎上」という危機想定シナリオを提示し、AIを用いて第一報となるお詫びリリースを作成してもらう「実験的調査」を実施した。

本稿では、この実験結果に加え、テレビ局で長年報道記者を務めたメディアOBの視点も交えながら、これからの危機管理広報における「AIと人間との適切な協働のあり方」を探る。

 

 

【リリース化するための課題/危機想定シナリオ】

 

 【主な設問(取り組み課題)】

■完成したリリース本文の張り付け
AIで出来上がったリリースを次のページに貼り付けてください。
貼り付けたうえで、リリース文面を実際同様に人の「目」でチェックして、修正が必要と思われる個所はご自身で修正を加えてください。
修正する際はWordの校閲タブの「変更履歴の記録」をつけて修正してください。(修正箇所がわかるようにするためです)
なお、「修正不要」と判断する場合は修正されなくて結構です。
ご自身で貼り付けたAIのアウトプットを見て、修正・調整した箇所があれば、その理由を教えてください。
例:謝罪表現が強すぎたので弱めた、主語を変えた、責任範囲を調整した、など

■使用したプロンプト(全て)
最初に投げたプロンプトから最終指示まで、順番通りにすべて記載してください。
(プロンプトの部分をコピー&ペーストで下記に張り付けてください)

■今回の作業を通じて「AIでは補えないと感じた点」があれば教えてください。

 

【調査対象者(PR会社勤務従業員)】

対象者1
広報・PR業務の経験年数:30年以上
AIツールの利用頻度:月に数回使う

  • 対象者2
  • 広報・PR業務の経験年数:11〜29年
  • AIツールの利用頻度:ほぼ毎日使う
  • 対象者3
  • 広報・PR業務の経験年数: 11〜29年
  • AIツールの利用頻度:ほぼ毎日使う
  • 対象者4
  • 広報・PR業務の経験年数:1〜3年
  • AIツールの利用頻度:ほぼ毎日使う
  • 対象者5
  • 広報・PR業務の経験年数:1〜3年
  • AIツールの利用頻度:ほぼ毎日使う
  • 対象者6
  • 広報・PR業務の経験年数:1〜3年
  • AIツールの利用頻度:ほぼ毎日使う

 

 

  1. 1.AIのアウトプットを左右する「消費者目線」の経験値

最初の問いは、「AIを使えば、経験に関わらず一定水準のニュース・リリースを作成できるか」である。 結論として、制限時間30分以内で、全員がリリースの基本構成を満たした文書を出力することはできた。このことからAIは、広報業務経験が浅い担当者にとって「ゼロからイチを生み出す労力」を削減する強力なツールでありえる、と言える。

しかしながら、AIが生み出した成果物は、そのまま世に出せるレベルのものは一つもなく、全員が人間の「目」による推敲や修正指示を行うことなしには使い物にならないものであったことも事実である。

 

この結果について、メディアOBは次のように指摘した。

「(AIの)アウトプット、リリースの質はプロンプト(指示)次第であり、リリースの目的や重点をどこに置くかで大きく変わる。そのことは、広報経験があるか、今回の例でいうと消費者目線に立っているかという点が大きく影響する。」

「AIが拾うのはネット空間に蓄積された情報である。危機管理案件において、会社内でどう処理し、どう広報内容を決定したのかというプロセスはAIには分からず、過去の『似て非なる案件』を参考にせざるを得ない限界がある」(テレビ局OB)

 

上記の指摘の通り、AIは「それらしい文章」を作るのは得意だが、リリースを作成する自社のコンテクストや独自の意思決定プロセスを反映させるには、少なくとも現状では、人間の広報担当者による的確な舵取りが不可欠と言える。

 

2.プロンプトに表れる「AIリテラシー」と「リスクへの嗅覚」

①実験結果に見る、各対象者の回答の違い

AIへの指示文である「プロンプト」にも、参加者の経験値やAI利用頻度による明確な違いが見られた。
以下では、実際の実験結果を引用しつつ、その違いを見てみたい。日常的にAIを使いこなしている若手層は、生成AIの特性を活かしたテクニカルな手法を用いた。

広報経験1〜3年(対象者5)の場合:
いきなり文章を書かせるのではなく、プロンプトで「まずは、食品メーカーの過去の不祥事に関するお知らせの事例を調べて、そのリンクを教えてください」とAIに自ら学習用の素材を探させていた。
その上で、実在する他社(菓子店)の異物混入に関するお詫び文をテンプレートとして提示し、「参考文章を元に作成してください」と指示を出していた。

同じく広報経験1〜3年(対象者4)の場合:
プロンプトの冒頭で「あなたはPR会社の役員であり、有能なPRコンサルタントです」とAIにペルソナ(役割)を付与することで、専門家レベルを保持したアウトプットを引き出す工夫を行っていた。

一方で、以下の広報経験の長いベテランは、情報統制に対する強い警戒感をプロンプトに直接反映させていた。

広報経験11〜29年(対象者2)の場合:
プロンプトの必須条件として
「『誠実な謝罪』と『事実のみの簡潔な記載』のみにとどめること」と厳格な制限を課していた。
さらに、作業後の振り返りで次のように核心を突くコメントを残していた。
「AIは語り過ぎる傾向にあると思った。誠意や情報開示の姿勢を見せつつも、突っ込まれる隙を与えず、炎上するリスクを最小限に抑えるための情報コントロールは、人が介入すべきだと感じた」

広報経験30年以上(対象者1)の場合:
「シナリオの中に『自主回収』の記載はありませんでしたが、私はシナリオを読み通常は自主回収をすると思いました。問題となった製品以外のものにも異物が混入している可能性があり、普通の企業では、自主回収を行うと思いました。そうしたことがAIのアウトプットには反映されていなかったので補ってリリースを作成しました」
「『自主回収する』ということをメディアに報じてほしい。そのため『自主回収』を見出しに書きました」

 

②プロンプトで「言わなくていいことを書きすぎるな」と釘を刺す

実際、AIは「お詫び」を指示されると過剰な謝罪の言葉を並べる傾向がある。そのため、若手層である対象者5もプロンプト内で「言わなくていいことを書きすぎるな」と釘を刺し、対象者6も出来上がった文章に対し「もう少し、お詫びと事実確認を進めている程度にとどめ、簡潔にしてほしいです」とわざわざトーンダウンさせる修正指示を出していた。

対象者6は「謝罪を強調しすぎていた点。このリリースを読む人が何の情報があったら困らないかな、という視点」がAIには補えない点だと述べていた。

対象者1も、「発生事案のシナリオだけを入れたうえで作成指示をすると、作成者の私が意図したものと違う焦点のリリースが出てきました」と振り返っていた。

 

③現場のリアルな葛藤がプロンプトと修正過程に色濃く反映

以上から、若手がAIの学習能力やペルソナ設定を駆使して「効率と質のベース」を整えることに力点を置く一方、ベテランは「不必要に語りすぎて揚げ足を取られる」という危機管理特有の炎上リスクを熟知し、AIに「どう振る舞うとよいか(いけないか)」の要素を怠りなく指示する、といった具合に、それぞれの経験や現状を踏まえた戦略の立て方がプロンプトと修正過程に色濃く反映される結果となった。

 

 

  1. 3.広報は「検品者」ではない。現場を巻き込み危機管理をリードせよ

  2.  
  3. 今回の実験とメディアOBの講評を通じて、「AIには決して代替できない、人間の広報担当者の本質的な役割」が浮き彫りになったが、具体的には以下の3点が要点として挙げられる。

 

「さらなる被害拡大を防ぐ」という最優先のミッションへの想像力と、自身で「自主回収」の判断を補う能力

前述のメディアOBは、今回の架空シナリオ自体に対しても報道のプロとして鋭い指摘を投げかけた。

 「今回の事案で最も重大なのは『鋭利な異物が混入し、消費者が負傷した(もしも子どもが飲み込めば、食道や胃腸を傷つけ、重篤な症状を起こしかねない)』という深刻な事態である。つまり、さらなる被害を防ぐことが現段階の最優先事項である」

 

実験のシナリオ設定には会社の判断として「自主回収」を決定しているとの記載はないが、対象者1は自らの判断で「自主回収」の要素を補ってリリースを作成していた。

AIは与えられた事実をまとめるだけだが、「これは人命に関わる。ただちに回収すべきだ」という社会的責任に基づく判断は、現時点では人間にしかできない可能性が高い。

 

 

情報の「欠落」に気づき、社内を動かす主体性

さらにメディアOBは続けます。

「欠損したヘラが他の商品に紛れ込んでいる可能性はないのか? 現在、生産ラインはどうなっているのか? 点検中か? そういった肝心な情報が設定されたシナリオ(事実経過)にはない。他の商品にも紛れ込んでいるという可能性があるという前提に立つならば、出荷停止や販売店からの回収措置、消費者への回収呼びかけ、生産ラインの一時停止、総点検、再発防止策なども盛り込むべきだ」

 

現状は、AIは「与えられた情報」からしか文章を作れない。しかし、実際の広報現場では「情報が足りない」ことの方が多いはずである。また、過去事例としてネット空間に詳細な情報や類例、事案の分析・評価などが存在しないケース、すなわち「初事例」の危機管理も現実には多発している。
こうした点を踏まえると、不足している情報があれば、現場を巻き込んで事実関係の徹底的な確認を行い、必要であれば広報から対応策の徹底を促し、経営陣とすり合わせを行うことも重要である。ステークホルダー目線に立って「いま社会が何を求めているか」を明確化し、社内を動かすことこそが、広報に課せられた重要なミッションということになるだろう。

 

「血の通った」コミュニケーション

「謝罪を強調しすぎている」、「事務的すぎる」といったAI特有の極端なトーンを調整し、「自分や家族が異物混入製品を食べていないだろうか・・・」と不安に思う消費者のために、商品の特定情報を一番上に持ってくるなど、ステークホルダーの顔を想像しつつ血の通った配慮を文章に落とし込むスキルとなると、まだまだ「人間の感性」に委ねる部分が大きいのが現状であろう。

 

おわりに:危機時のAIとの付き合い方と広報課長へ送るエール

本調査を終え、冒頭のとあるメーカーの広報課長の「私の仕事はなくなる…」という言葉に対する答えは明確である。広報の役割は、少なくとも当面は、AIが作った文章の単なる「検品」に止まることはない。

 

まずは、調査結果を見たメディアOBからの言葉を借りると、

「実際、発信する情報の中身を決めるにあたっては、現場を巻き込んでの事実関係の徹底的な確認(足りていないと感じたら広報から徹底を促すことも)、対応策の確認(同様)、対外広報方針や具体的な広報文の作成(消費者目線に立って何に主眼をおくべきかを明確化)、経営陣とのすり合わせ、広報文案や対外QA案の決定など、AIを便利に使いこなしながらも、広報が主体的に果たす役割は依然、残ると思う」

 

もし、AIに「リリースの作成の仕方」を聞くのではなく、「このような異物混入に対して企業としてどのような対応が適切か」と聞けば、AIは常識的に(教科書的に)自主回収をするという判断をする。
しかし、そうした常識的・合理的判断を最終的に「覆す」のもまた人間であるというリスクも十分に認識しておかねばならない。周知のとおり、とるべき対応が明らかであるにもかかわらず、最終的に当事者企業が、「コストがかかるから」とか、「大したことはないから」などといって、その場限りの安易な判断に傾き、報道を見ていると最終的に大失態を演じた事例は枚挙に暇がない。

(筆者も、事案発生直後にそのような混乱した現場によく呼ばれる。広報部門から依頼され、経営層や他部署を説得・調整する仕事も多い。これがむしろ人間ではなくAIが判断すればより合理的な判断ができるのではないかと思うこともあったが…)

こうした判断ミスを防止するためには、今回のリリース作成実験のようにAIにリリースを作らせるにしても「リリースを作れ」というプロンプトからスタートとするのではなく、「企業としてどのように対応すべきか」という前提のプロンプト(プロンプトで入力しなくてリリースを修正した者はその問題意識)から始める、という手法は有効かもしれない。

 

ベテランの広報ほど、リリース原稿を書く時点で、それに入れるための足りない情報(メディアや顧客に聞かれる情報は何か)をすぐに感じることができるはずである。そのため、不足している情報があれば、現場を巻き込んで事実関係の徹底的な確認を行い、必要であれば広報から対応策の徹底を促し、経営陣とすり合わせを行うという人間が行わざるを得ない作業が残る。

 

仮に問題が大きくなり、内部監査や第三者委員会の調査が入るような事態となった場合、「初動対応として、誰が、いつ、AIにどのようなプロンプトを打ち込んだか」が検証対象となる可能性も否定できない。そのような場合に、自身を守るためにも、広報担当としては、リリース作成過程の初期において、「自社の行動規範」や「危機対応の原理・原則を踏まえた適切な対応を行った」という証跡を残すことも、重要になってくる可能性はあるかもしれない。これこそが究極の「人間に依存する作業」である。

 

さて、今回の調査結果からもわかるように、AIを活用してアウトプットの質を高めるには、プロンプトを入力し、出てきた文章に対して何度も修正や条件追加を重ねる、AIとの「壁打ち」プロセスが重要になる。しかし、危機管理広報においてそれ以上に重要なのは、社内の関係各所に対する「壁打ち」である。

不祥事やトラブルが発生した際、AIに向かってプロンプトを打ち込むだけで対応が完結することはあり得ない。現場で何が起きたのか、生産ラインの現状はどうなっているのか、経営陣はどう責任を取るのか。AIが作成した一般的なお詫び文の「空欄」を埋め、実態に即した内容にするためには、広報担当者が自ら社内を駆け回り、取材し、鋭い問いを投げかけて情報を集め切る必要がある。この人間同士の「壁打ち」による事実確認こそが、有事の広報において最も重要な視点と言える。

 

AIの文章作成能力に頼り切り、この社内情報の精査や人間による経営的な判断を放棄した企業は、社会が求める対応を見誤り、ステークホルダーからの信頼を根本から失墜させるようなダメージを負いかねない。AIはミスのない文章を超高速で作成できるが、「被害者への想像力」や「企業としてのスタンスの明確化」、そして「社会に対する責任ある決断」は出力してくれない。

「AIに仕事を奪われる」と恐れるのではなく、AIを便利な壁打ち相手として使いこなしながら、積極的に社内を巻き込み、企業と社会をつなぐ担当者として自らの経験に基づいた配慮や判断を下す。それこそが、これからの時代における広報の、当たり前で変わらないミッションである。

 

(文中の意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であり、所属組織等を代表するものではない)

 

 

前の記事

危機管理を考える【18】 プレゼンテーション時の「頭の中が真っ白になってしまう」リスク回避方法とは