2020年3月29日

持続可能性を取り戻す対コロナ・ショック危機管理を考える ー 現金給付か、商品券配布か、それとも消費税率カットか…

PR総研所長 池田健三郎のコラム SDGsと経済(3)

議論百出の様相を呈している「コロナ・ショック」の危機管理政策。その要諦は、医学・疫学的対応を除けば (1)「最低限度の生活が脅かされる状況に陥った」方々に日々の生活面での持続可能性を回復させるセーフティネットの整備、 (2)日本経済全体の底割れを防ぐための広範な経済政策、の2点です。 これらを区別して各々着実に実施される必要があるでしょう。 2020年3月28日夕刻の総理記者会見を見る限りでは、この考え方から外れた政策展開はなかろうと判断されますが、具体論がみえてくるのは少し先であり、しっかりと注視していきたいと思います。

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新型コロナウイルスCOVID-19による世界的な感染拡大が止まらない中で、日本国内ではイベント開催や移動を伴う企業活動を中心にビジネスの大幅な縮小を余儀なくされています。その煽りを受ける形で、売上・収益を喪失する企業や個人事業者も後を絶たず、「このままでは事業継続が不可能だ」という悲鳴もあちこちから聞かれる状況です。

たとえ個人レベルでウイルス感染を免れたとしても、雇用・所得環境が急激に悪化し、自殺者が増える等の2次被害も懸念されるところです。

こうした中で日本政府においては、今回のコロナ・ショックを最小化するための何らかの対応策を講ずべく、その内容が検討されていると聞いています。 

この間、政官学財など様々な立場から、当面の対応策がいかにあるべきかの意見がいろいろと出されており、まさに議論百出の様相を呈しています。 

わたくしはここで個別のアイディアに現時点で1つ1つコメントすることはいたしませんが、「とりあえず全国民に現金10万円を配れ」とか「まずは消費税10%をゼロにすれば消費が増えて何とかなる」といった、些か性急で情緒的にもみえる議論には現時点では賛同できません(慎重かつ専門的に検討した結果、どうしてもそれしかないという結論に到達したならば全面的に否定はいたしませんが)。 

それよりも先ずは、スピード感を持ちながらも冷静に「危機管理の基本方針」を確立し政府および立法府で共有(非常時に与党も野党もない)したうえで、これを国民によく説明して理解を得ることが重要でしょう。それを行ったうえで具体的な施策を発動する、すなわち「政策目的を明確化してから、それに具体策を紐づけていく手法が採られるべき」と考えます。

さもないと、いつの間にか、「この政策は何を目的とするのか」が曖昧になってしまうリスクがあるからです。この非常時に、ピンボケとかダメ元の施策を打っている余裕はないのです。

当然、最重要であるCOVID-19そのものへの対策は、ウイルス対策それ自体であり公衆衛生面における医学・疫学的対応なので、これらの保健政策は横に置きます。

ここでは、それ以外のウイルス被害対策、就中、経済面での危機管理について考えてみましょう。

結論を先に言えば、政策の目的は大きく2つあり、

(1)「最低限度の生活が脅かされる状況に陥った」方々(個人)に日々の生活面での持続可能性を回復させる、セーフティネットの整備

(2)日本経済全体の底割れを防ぐための広範な経済政策 

この両者をごちゃ混ぜにした感情論で乗り切るのではなく、上記2つをしっかり区別して冷静に手を打つべきだということです。 さらにもう1つ付け加えるとすれば、

(3)人心の安定

でしょう。

まずはじめに、政策目的の1つ目は、(1)明らかに今回のコロナ・ショックにより「最低限度の生活が脅かされる状況に陥った」方々(個人)に日々の生活面での持続可能性を回復させる、セーフティネットの整備です。 これは生活保護の根拠となる、憲法第25条の「最低限度の生活水準を担保するための政策」と同義(生活困難の原因が明らかにCOVID-19にあるケース)に該当し、著しい困窮という「結果」に対する手当です。

したがって、従来のセーフティネット政策との整合性をとりながら、今回の危機に適合する対応を行うということに尽きるでしょう。その際に重要なことは、「本当に必要としている人にだけピンポイントで支援を届けること」です。

仮に一律10万円を現金や商品券で全国民に支給すれば、支援不要の富裕層、コロナ・ショックの影響を受けない公務員や年金生活者(いずれも固定収入が保障されている)、果ては反社会的勢力までも一律に恩恵を受けることになり、これはもうセーフティネット政策とは呼べません。そこへきて、現金の代わりに商品券とか、肉券・魚券が良い云々、といった議論はほぼナンセンスとしか言いようがありません。

消費税率のカットも、一律の現金支給と同様、少なくともセーフティネットの文脈には馴染まず、むしろ富裕層ほど恩恵が大きいために、最低限の社会的安全弁としては歪んだ効果をもたらします。また、税率カット前は、当然ながら買い控えが起こるので、関連産業にダメージを与えるリスクも軽視できません。

このような政策目的を外れた共助の発動は、やはり筋が良い政策とはいえず、そのまま実行することには、少なくとも現時点では疑問が残ります。

他方で、政策目的のもう1つは、上述(1)のような個別の方々への対応とは別の、(2)の日本経済全体の底割れを防ぐための広範な経済政策です。

経済政策といっても、GDPのことばかり気にして個別企業のことを忘れては成り立ちませんから、COVID-19要因で売上・収益が大きく棄損した(またはする可能性のある)体力の弱い企業(とくに中小零細企業)の倒産を回避するとともに、ウイルス問題解消後の売上・収益の見込みを確かなものとして、雇用を維持することはプライオリティの高い項目でしょう。これは(1)のような「結果に対するショック緩和策」でなく、不幸な将来を防ぐための「予防策」です。

とはいえ資本主義・自由経済において政府は、危機に臨んで可能な施策は最大限実施しつつも、できるだけビジネス環境の整備(不要な規制の撤廃など)やオーバーシュート(行き過ぎ)の調整機能に徹し、「経済活動は民間に委ねる」のが大原則です。

それゆえ、先ずは、企業がこれまで貯めに貯めた463兆円(2018年度:法人企業統計による)もの内部留保(利益剰余金)をこの際、雇用維持など企業自らの持続可能性を保全するために活用すべきことは言うまでもありません。企業はこの時のために設備投資や労働分配を抑制してまで貯め込んできたのですから、「ここで自助を発揮しなくていつやるのか?」ということです。政府も乏しい財源をやり繰りする前に、税制の工夫などでこの内部留保の活用を誘導する方策を検討すべきでしょう。

ただ、内部留保を持たない企業やそもそも体力の弱い中小・零細企業も多いのですから、実際のところ企業部門の「自助」が実行されてもなお、問題は山積みのままとなるでしょう。

ここで政府からの「共助」(筆者は、「公助」は国民由来の民間資金が政府部門を経由して民間に戻るだけなので、これを「共助」の一類型とみなし、あえて「公助」の語を使用していません)を発動するタイミングになります。

米国政府による2.2兆ドル規模を筆頭に、日本も他の先進諸国と遜色ない規模の「経済対策」を打つことで、回っていない経済を動かそうとするわけですが、豊富な財源など持たない政府にできることには自ずと限界があるのも事実です。基本的に次世代の国民から借金(赤字国債)により政策を発動することにならざるを得ませんが、致し方ありません。

今回のような危機に際して、当面、企業の持続可能性の大きな障害となるのは、「資金繰り」です。

通常は問題ない企業でも、何らかのショックにより予定通り資金が入らなくなると、あっという間に支払い不能に陥り、玉突き現象のように倒産に至るケースが少なくありません。ですから、民間金融部門だけで手当てし切れない資金繰り支援は、政府部門が政府系金融機関を使うなどして迅速に対応する必要があることは言うまでもないでしょう。

パンデミックに起因する実体経済のショックを、金融セクターに飛び火させることは避けなければなりませんが、まずは実体経済サイドに対する金融支援をしっかりと行い、金融セクターの「守り」はその後に固める、という手順にならざるを得ないと思われます。

あとは、ウイルス汚染が終息するまでの間、活動休止あるいは活動抑制で籠城を余儀なくされる企業・個人が「強い行動制約を受けながらも命を繋ぐことができる支援」をいかに政策的に行えるかということでしょう。熊は冬眠すればリスクの高い期間を活動休止にして寝て過ごせますが、人間の場合は冬眠できず、低活動期間の衣食住コストも必要ですから、何らかの支援が必須となるわけです。

ウイルス問題終息後は再び経済が始動しますので、その時には復旧プロセスを円滑化させ回転を速める政策が別途必要となりますが、それはもう少し先の話。まずは「活動休止期間をいかに無事に過ごせるようにするか」に施策を集中すべきでしょう。

その手法としては、上述の資金繰り支援に加え、雇用調整助成金の拡充も有効でしょう。日本は米国などと違って、すぐにレイオフを行ってカットした賃金を資金繰りに充てるという手法が採れないので、雇用維持のための政策発動は必要不可欠です。

それらの対策を手厚く実行しながら、ウイルス問題終息後の復旧期にこれまでの停滞による損失を取り戻せるほどの勢いで経済活動が再開できるよう、あらかじめ規制緩和や新規事業立ち上げ促進のための環境整備等を怠らないことも重要となります。他方で、「巣ごもり消費」へのシフトや在宅勤務の拡大など、今回のショックを契機としたビジネスモデルの転換にも目を凝らし、その動きを生産性改革に繋げるといった、したたかさも求められるでしょう。

民間(とくに体力のある大企業)でできることは、あらゆるモラトリアム(支払い猶予)を可能な限り実施することと、ウイルス問題解決後を先取りした予約取引や将来の契約などをできるだけ多く行い、可能な限り「前払い」などを行って、契約相手の資金繰りが急激に悪化しないようすることです。

なお、問題終息後においては改めて、危機終息を受けた回復政策を検討し、日本経済をV字回復させるために、あらゆる政策を発動しなければならないことは言うまでもありません。

以上の政策は、いずれも最悪の状況を回避するために、最低限必要なものです。

最後に(3)人心の安定についても述べておきます。

これまでの動きからもわかるように、人間というものは、経済学の想定のように合理的行動を常にとれる動物ではありません。むしろ、明確な根拠なきデマに左右されることも珍しくなく、昭和のオイルショック同様にこの令和の時代においても、トイレットペーパーやインスタントラーメンといった日用品を爆買い・貯蔵してしまう人も少なくないのが、日本人の実情です。

したがって、ロジックばかりで政策を組み立てると、思わぬところで足元を掬われかねない点にも留意が必要です。

すなわち、人心の安定を図るためにも、政策当局や企業はしっかりと意を用い、折角の対策の効果を低減させないためにも、理屈だけでなく人間行動学的見地を踏まえた、人心安定化のための何らかの方策も考えなければなりません。必要に応じてPR/危機管理のプロの助言を受けたうえで情報の受発信を行うことも有効でしょう。

以上を踏まえ、ひとも企業も、今回のコロナ・ショックの犠牲となる事案をひとつでも減らし、この危機を官民挙げて乗り越えるべく、私たちも自らの危機管理とともに、パートナーシップの一翼を担っていきたいと考えています。