2021年6月17日 10:00

【SDGs推進企業インタビュー】大和ハウス工業「SDGsを実証し、実装するまちづくり」

推進企業のキーパーソンへのインタビューを通じ、サステナブルな仕掛けづくりへの思いや課題を探る

SDGs 達成に向け、民間企業においても、自身のビジネス領域はもとより、業界や競争関係を超えた様々な取り組みもみられるようになっています。こうした中、PR 総研では、SDGs 推進企業のキーパーソンへのインタビューを通じ、サステナブルな仕掛けづくりへの思いや課題について探ります。今回は、大和ハウス工業株式会社の取り組みをご紹介します。

 

【大和ハウス工業株式会社】
「ネオポリス」と呼ばれる郊外型戸建住宅団地をこれまで全国 61 ヶ所、延べ 6 万区画以上にわたり開発し、その多くが 40 年以上経過。なかでも 1972 年に販売開始した横浜市の「上郷ネオポリス」は、高齢化率が 50% 超と最も高く、商店街の閉店による買い物難民の増加や、高齢者と地域のつながり喪失など多くの課題に直面した。
その解決のため同社では、過去に開発したあらゆる郊外型戸建住宅団地を再耕(再生)する「リブネスタウンプロジェクト」を推進。
2019 年10月には「上郷ネオポリス」内に住民主体で管理運営するコンビニエンスストア併設型コミュニティ拠点「野七里テラス」を開設した。

 


同社による「リブネスタウンプロジェクト」への取り組み開始は 2014年。まず、地域で高齢者の見守り活動を実施する団体との意見交換や、約 900 戸の住民を対象にしたアンケート調査による課題や要望の抽出など、住民の声を徹底して聞いた。
その後、本調査から明らかになったニーズに対し、住民が運営に携わるコンビニエンスストア併設型コミュニティ拠点づくりを始め、自治会、団体、大学、行政との連携によるソフト・ハード両面でのサポート に取り組んでいる。こうした経緯に加え、2020 年以降のコロナ禍による様々な交流制限下での模索や成果についても伺った。

大和ハウス工業 リブネスタウン事業推進部 東日本統括グループ

副理事 瓜坂和昭氏(左) 上席主任 柘植令雅氏(右)

リブネスタウンプロジェクトは、誰のどのような課題に取り組んでいる施策でしょうか ー WHO IS THIS FOR?  

大和ハウス工業は、戸建住宅や賃貸住宅をはじめ、医療施設や物流施設、ホテルやホームセンターなど、多岐にわたり事業展開しています。
私たちが1970年代に開発した郊外型戸建住宅地「ネオポリス」では、現在、超高齢社会における課題に直面しており、これらの課題を解決し、街の魅力を新たに「再耕(さいこう)」するリブネスタウンプロジェクトに取り組んでいます。
しかし最初は、まちづくりではなく「どのようにすれば高齢の方々が生涯、健康で生きがいを持って人生を送れるか」という、人にフォーカスした取り組みを始めたのがきっかけでした。
私たちは、「生きがい」、「つながり」、「健康」、「安心」をキーワードに、多くの高齢の方々と一緒に様々な取り組みを行ってきました。
そういった取り組みでわかってきたことは、まちづくりを行っていくにあたり大切なことは、住民の方々の声に耳を傾け、住民の方々と一緒になって取り組んでいかなければならないということでした。

「上郷ネオポリス」は、1972年に弊社が分譲販売させていただいた約900世帯、2000人の方がお住まいになる団地です。
もちろん、お住まいのアフターメンテナンスはさせていただいてきましたが、残念ながら「まちづくり」という点では40年近くブランクがあったのは事実です。
私たちは、多くの高齢の方々との様々な取り組みにおいて、教えていただいた「住民視点」という目線で、住民の方々と共にサービスを創っていきたいと考えました。
そうして、住民の皆様に暮らしや街のお困りごとについて意見交換をさせていただいたことが、今日の「持続できるまちづくり」に繋がっていると思います。

コロナを逆手にとった「多世代コミュニケーション」に貢献

2019 年 10 月 29 日にコンビニエンスストア併設型コミュニティ拠点の「野七里テラス」をオープンしましたが、2020 年の緊急事態宣言発令もあり、コミュニティスペースは利用休止を余儀なくされ、実質的にオープンしていたのは 4 カ月間だけでした。
月 1 回、現地に赴いて実施していた定例会はリモート会議になりました。こうした環境の中で分かったのが、「コロナよりもコミュニケーションが断絶され、引きこもりから孤立し、心身に悪影響を及ぼす方が怖い」ということです。

そこで一つの試みとして住民の方々が、遠方に暮らす家族とコミュニケーションがとれるようにとテレビ電話の実証を行ったところ、「1 年ぶりに孫の顔を見ることができた」などと、非常に好評でした。

 また、外出を控えている高齢の方々をはじめとしたネオポリス内の住民の方々へお弁当等の宅配を試験的に行いました。
配達員については、当初ボランティアスタッフにお願いしようと考えていましたが、こども会から「子どもたちが外で遊べずストレスが溜まっている」という声が上がっていたので、ボランティアスタッフと子どもたちとがペアになって配達するという形態をとることにしました。
そして、子どもたちにも配達のご褒美としてボランティアスタッフがもらっている地域内通貨「野七里コイン」を渡しました。
このコインは「野七里テラス」のローソンでのみ使用できるので、皆さんお菓子などを買ってくれたようです。
こういった取り組みにより、コロナを逆手にとり、普段接する機会の少ない子どもたちと高齢者が話すきっかけが生まれ、多世代でのコミュニケーションのきっかけを創出することができたと思います。

  お弁当配達で、地域内通貨「野七里コイン」を手にした子どもたちとボランティアスタッフ

街ぐるみの「SDGs 実証」で、地域の移動手段サービス導入に取り組む

また、さらなる引きこもり防止施策として、横浜市と弊社が2020年1月に締結させていただいた「持続可能なまちづくり協定」のなかでも挙げている地域内の移動手段サービスとして、近距離モビリティ「WHILL」を導入し、3週間にわたって実証を行いました(個人レンタル<10台>・地域内シェアリング<3台>)。

実証期間中についてはできるだけ多く試乗していただけるよう、定期的に体験者の集いを開催して意見交換の場を設けたり、街中にSDGsカードを設置し、スタンプラリー方式で取り組めたりする工夫をしました。
すると、「WHILL」の体験者だけでなく、子どもたちも一緒になってカード集めを始めるなど、多くの多世代住民を巻き込んだ良いイベントとなり、結果として「WHILL」を貸し出してくれた横浜市にも貴重なデータを提供することができました。

引きこもり防止策として近距離モビリティ「WHILL」 を実証

この実証で得た大きな収穫の一つは、「WHILL」 というこの移動手段は、1 人乗りで乗ることを想定した乗り物ですが、実は、2人でこそ楽しく乗ることができる「人にやさしい乗り物」だということでした。
今回ご参加いただいた、あるご家族の話です。
ご病気で目がご不自由なうえ、左足も切除された方がいらっしゃいました。それでも前向きに、日頃は妻の介助を得て、車いすでの街中散歩を日課とされています。
ただやはり、妻にとっては、車いすを押すことが腰への負担となり、コルセットを装着されているとのことでした。
今回の「WHILL」は電動式なので、妻にとっても体への負荷が少なく、さらに肘置き上に操作レバーがあるため、横に立ってご本人の手に妻の手を添えて操作することになります。
何よりも横に並んで気軽に会話をしながら散歩ができるということに大変喜んでいただくことができました。

リブネスタウンプロジェクトでは、どのような成果が出ていますか  ー HOW DOES IT WORK?

まず、感じているのは弊社の取り組みに賛同し、応援してくださっている住民の方々、いわゆるファンの方々が、徐々に増えてきているということです。
当初、18 人の住民による「まちづくり委員会」から始まったこの取り組みが、今では「まちづくり応援団」が組織され、その数 は250 人に上ります。
今後についても、さらなる強化を図るため、一人でも多くの住民の方の参加を募っていきたいと思います。
今年度の目標としましては、「上郷ネオポリス」全住民の四分の一である500人の「まちづくり応援団」への参加を掲げて頑張っていきます。

「野七里テラス」については、弊社にとっては投資でしたが、住民の皆様にとっては「頑張ったら目に見える形になる」という面で非常に説得力がありました。
何事においても、どれくらい儲かるかが簡単に予見できれば誰もが手を挙げるのでしょうが、このようなまちを“再耕”するといった取り組みにおいては、収益の予想が非常に困難です。
当面、私たちは、ビジネスのみにとらわれず、あくまでも「住民の方々と再び絆を結び、共に“再耕”に取り組んでいくことを優先させ、その結果として他地域のフラッグシップタウンモデル」となるように、まちづくりに取り組んでいくつもりです。
幸い、近年は「上郷ネオポリス」付近の地価が下げ止まり始めています。こういったことも、私たちの取り組みが少しは好影響を与えていると感じています。

 そして、ここにきて住民の皆様からありがたいお話をいただきました。
実は、弊社がまちづくりに取り組むにあたり、住民の皆様に対し「営業行為は一切しません」と約束してスタートしました。
一方で、弊社の取り組みがメディア等に取り上げられはじめ、昨年末あたりから様々な建築関係の売り込みチラシが各世帯へ多く配布されるようになりました。
その状況を受け、住民の皆様から「大和ハウス工業が色々とやってくれているのだから、不動産の相談は大和ハウス工業にしたい」といった声が上がってきました。これは、通常ではありえないことだと思います。

これを機に、2016年に締結した「上郷ネオポリスにおける持続可能なまちづくりに関する協定書」に基づいて、住民の皆様の様々な悩みを解消する相談窓口の開設や定期的な勉強会の開催、さらには、これまで取り組んできたことが「持続可能なまちづくり」としてSDGsに貢献していることから、『SDGs推進の街宣言』を行うことなどを約した覚書を、弊社と上郷ネオポリス自治会との間で締結しました。

御社がパブリックリレーションズとしてこだわっているポイントを教えてください ー WHY PR ?  

私たちは、まちづくりに取り組む大前提として「人にフォーカスする」ところから始まっています。
ネオポリスに住まわれている方々、さらには関係するステークホルダーの皆様に至るまで、どのような課題を抱え、どのようなサービスを求めているのかを、徹底的にヒアリングしてきました。
その結果、わかったことは、求められているのは、もはやモノだけではなく「体験や感動、生きがい」といったお金にはかえられない価値であるということでした。

「上郷ネオポリス」ではこれまで40年以上にわたって、毎年7月、街から出た子どもや孫たちが 帰省して2,000~3,000 人が集まる夏祭りイベントを実施してきました。しかし、残念ながら昨年はコロナ禍で中止となってしまいました。
そこで、「密にならないイベントができないか」と考え、全世帯の玄関に笹を飾る「七夕まつり」はどうかと私たちから提案させていただいたところ、あっという間に実施することが決まりました。
高齢の方々を中心に準備が始まり、自らチェーンソーを持って裏山に笹の伐りだしに行ったり、その伐りだした笹を全戸に配り歩いたり、「80 年生きてきて、はじめて短冊を書いた」という方もいらっしゃり、見事に無事「七夕まつり」を終えることができました。

 この街の魅力は、私たちがボールを投げたら、必ず住民の方々が投げ返してくれるところです。
こういった取り組み一つとっても、「自分がいないと祭りはできない」といった使命感や、「みんなの役に立っている」といった幸福感など、お金にかえられない価値が生まれます。
そのことこそが、持続的なまちづくりを行っていくための原動力になっていくと感じています。

弊社の基本姿勢は「共創共生」です。
私たちは、住民の方々と共に街を創って、共に生きていくという「生涯伴走」の覚悟です。
上郷ネオポリスでは、今ようやく信頼関係を取り戻しつつあります。
だからこそ、これからお互いがwin-winの関係を持続させながら街を良くしていきたい。これが私たちの理想です。
今後も、住民の方々との「共創共生」を体現する想いでまちづくりへの歩みを止めることなく進めていく所存です。

「七夕まつり」ボランティアによる笹の伐りだし

御社にとって、サステナビリティとは何でしょうか。現状の捉え方、そして今後の課題やチャレンジを教えてください ー WHAT IS Sustainability ? 

これから世界的にも、企業の評価やブランディングにおいて、SDGs 達成に向けた取り組みは不可欠な要素です。
企業は利益もさることながら、社会課題に対してどこまで取り組めているのかについて評価されることになります。
現在、我が国は人口減少の時代に突入しているわけですから、高度経済成長期のように開発を推し進めていく時代ではもはやありません。
弊社としては、既存のまちを今一度“再耕”し、かつて夢のマイホームを手にしていただいた住民の方々にその夢の続きを見ていただく、というこのまちづくり事業こそが、サステナブルな事業だと思っています。
弊社では、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの活用にも注力していますので、こういったシステムもまちづくりに取り込んでいきたいと考えています。

このビジネスモデルを完成させるためには、住民の方々の協力が必要不可欠です。
これからどの程度の時間がかかるかわかりませんが、「上郷ネオポリス」の住民の方々と共にサステナブルなまちモデルを創り上げていきたいと考えています。

この「上郷ネオポリス」は、61 ヶ所あるネオポリスの中で最も高齢化が進んでいる場所であるために、モデルケースができれば、他の 60 ヶ所もその土地柄などに最も適した形にアレンジして展開できるのではないかと考えています。

【インタビューを終えて】

大和ハウス工業が「つくる責任」を果たす取り組みの軸足が、ハード面よりもむしろ、徹底して人に寄り添うソフト面に置かれていることに、まず率直な驚きを感じた。
さらに、本プロジェクトでは、多くの施策が住民参加型の「実証」を伴い、そのデータが自治体・大学等研究機関・協賛企業等と適切に共有され「実装」へと進められる点も興味深いものであった。
こうした手法は、同社が持続可能なまちづくりという「目標」の達成に向けた各種サポートを得られる一方、参画した他の当事者もそれぞれメリットを享受でき利点が多いだけに、他の SDGs 推進企業にとっても示唆に富むモデルといえよう。

もっとも、このモデルを安定的に運用するためには、プロジェクトを推進する同社側が、「共創共生」を念頭に住民をナッジ(後押し)し伴走する粘り強さに加え、全ての当事者を取り纏め牽引し続ける熱意とアイデアが前提となることは言うまでもない。これは並大抵の決意では成し得ないとも感じた。

なお、一般的に大規模プロジェクトは短期的な「成果」が測り難い面があり、同社としても「ビジネスモデルを模索している」由であったが、本件においては、(1)まちづくり組織に多くの住民を巻き込めた(目標数の半ばまで到達)、(2)地価が下げ止まった、(3)住民側から相談窓口の設置希望があり情報収集やリフォーム需要等を取り込めた、など総じて成果が既に現れている。
したがって、この取り組みが社会的インパクトを有するのみならず、企業の存続に不可欠な利潤追求とも整合的なものであることも確認できた。

最後に、同社では今後、「上郷ネオポリス」の取り組みを踏まえて他の 60ヶ所へと「展開」していく流れであろうが、将来的にすべての住宅団地でこうした「上郷モデル」が根付き開花すれば、日本の住宅団地が「持続するニュータウン」として活気を取り戻すこととなり、これは地方創生すなわち「住み続けられるまちづくり」に向けた大きな一歩となるかもしれない。

【大和ハウス工業 まちの再耕・モデルプロジェクト】https://www.daiwahouse.co.jp/jujitsu/model/

 

共同ピーアール株式会社 総合研究所(PR総研:所長 池田健三郎)は、SDGs(持続可能な開発目標)を踏まえたCSV(経済的・社会的な共通価値創造)推進活動を行うシンクタンクです。
2020年3月、(一社)日本記念日協会の認定を受け3月17日を「みんなで考えるSDGsの日」に制定しました。SDGsの「17 Goals」にちなみ、毎月17日に情報の発信や交流を中心とした取り組みを行っています。

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【インタビュー・編集】主任研究員 藤田嘉子
【発行】 
所長 池田健三郎