2020年3月5日 12:00
PR総研所長 池田健三郎のコラム
試験問題=「自分が居住する都市が誇れるものとなるために、自分自身どんなことができるのか。SDGsの17目標から一つ選び、自分ができることをわかりやすく説明せよ」という設問に、あなたならどう回答しますか?
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通勤電車内のドア横・目の高さの定位置にある、企業広告に何気なく目をやると、SDGsのロゴがひときわ目立つものがありました。何だろうと思ってよくみますと、「シカクいアタマをマルくする。」のコピーが見えます。
これは中学受験進学教室「日能研」の広告で、中学入試問題をクイズ仕立てにして提示してあります。主な乗客である「大人」に考えさせるという意図がみえる、毎回なかなか含蓄ある内容で、筆者もついつい考えこんでしまうことが少なくありません。
それによると、2020年の開智中学校(埼玉県さいたま市の私立学校)入試問題で、次のような問題が出題されたそうです。
(以下は日能研サイト: https://www.nichinoken.co.jp/shikakumaru/202003_shから問題部分を引用)
(問)
下の図は2015年に国際連合で決定されたSDGs(持続可能な開発目標)の一覧です。SDGsは途上国も先進国も含(ふく)めた世界中の一人ひとりに関わる取り組みとされており、17個の目標に対して、責任をもって行動していくことが求められています。さいたま市は2019年に「~誰もが住んでいることを誇(ほこ)りに思える都市へ~」をスローガンにして、「SDGs未来都市」に選定されました。では、さいたま市に限らず、あなたが住んでいる都市が「誇りに思える都市」になるために、あなたはどんなことができますか。SDGsの17個の目標から一つ選び、1~17の番号を解答欄(らん)に記し、その目標に対して、「誇りに思える都市」になるために、あなたができることをわかりやすく説明しなさい。
同サイトには当然、日能研としての解答例も掲載されています(詳細は同サイトをご参照願います)。
このうち【解答例1】は、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」を選択し、食生活における地産地消の実行で食料輸送時の温室効果ガス排出削減に貢献することが、誇りある都市づくりにつながると提示しています。
また、【解答例2】は、ゴール12「つくる責任 つかう責任」を選択し、大量生産・大量消費をしない都市の実現のために、不要となった洋服のリサイクルショップでの処分や友達等への譲渡を行いたいとしています。
上記の問題は、私立中学入試問題なので、元来は小学6年生が3学期に受験することを想定してつくられたものです。その点を踏まえつつ、上記の解答例をみて先ず感じたのは、「なるほど、今どきこれくらい書けないと、中学入試における合格答案の水準に達しないとすれば、小学生も大変だな」ということでした。
次に筆者の頭をよぎったのは、「これがもしも高校入試、大学入試、大学院入試、あるいは企業・官公庁の採用試験、または企業・官公庁の昇任試験だったら、同じ問いに対して要求される合格答案はどんなものになるだろうか」ということです。
すなわち、本気でSDGsを達成しようとすれば、年齢・立場を問わず、すべての当事者がこの開智中学校の問いと同じものに、レベルの差こそあれ、何らかの対応を迫られる可能性が高いということでしょう。果たして、わたくしたちに今、十分なその心構えとスキルがあるでしょうか。
SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」を引き合いに出すまでもありませんが、SDGs志向の人間を育むためには、少し大袈裟に言えば幼い段階から、そうした考えを教育によって身に着けることが必要で、それが大人になっても生きてくると考えればこそ、開智中学校はこうした問いを受験生に入試で課したのかも知れません。
というわけでこれは、子供たちに「単なる入学試験という一時点を乗り越えるためだけの材料」としてSDGsを捉えさせるのではなく、SDGsへの理解や実現に向けた具体的アイディアなどを記載させることによって、受験者の問題意識や構想力、記述力はもとより、その公共心、生活環境や、根底にある人間性をも浮き彫りにさせる可能性を含んだ「良問」といえましょう。
それと同時に、例えば「SDGsの17ゴールをすべて暗記して穴をうめる」ような暗記一辺倒の問題ではなく、この開智中学校のように「しっかり考えさせる」問題が入試に出されている現状に、安堵感を抱きました。いまや「暗記したものを吐き出すだけなら、AIに任せておけばよい」時代なのですから。
以上を踏まえて、改めて、「自分が居住する都市が誇れるものとなるために、自分自身どんなことができるのか。SDGsの17目標から一つ選び、自分ができることをわかりやすく説明せよ」という問いの幅広さと深味を感じたところです。
無論、受験者の年齢や能力によって、求められる「回答」の水準は異なってきますが、このコラムの読者におかれましてはこの際、ぜひご自身の状況・立場に応じた、この問いに対する「合格答案」を考えてみていただきたいと思います。
因みに、筆者の小学6年生時代を思い起こすと、このようなテスト問題に合格点をもらえる回答ができたとは到底思えず、まことに情けない限りです。
※本稿の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、PR総研および共同ピーアール(株)の意見ではありません。